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【2025年映画】なぜ人は『鬼滅の刃』と『国宝』に熱狂したのか──2作品が映した「日本人の価値観アップデート」

近未来の夜景で青い稲妻をまとう角の剣士と、満月の城下で赤い着物と扇子を持つ女性を並べた二分割イラスト

2025年、周りがやたら映画の話をしているのに気づいて「え、なんでそんなにヒットしてるの?」となった人(その後、実際に観に行った人を含む)は多いはずです。しかも盛り上がったのが、アニメ超大作の『鬼滅の刃』と、歌舞伎を題材にした実写大作『国宝』。ジャンルは全く異なるのに、どちらも社会現象級。

ここから見える“今の日本人の求め方”を、数字と中身の両方から整理します。


2025年の日本映画では「真逆の2本」が同時に勝った

まず、ここは事実で土台を固めます。

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』は2025年7月18日公開で、公開3日間の時点で観客動員384万3613人・興行収入55億2429万8500円という公式発表が出ています。鬼滅の刃 公式サイト
さらに公開122日間で国内興収379億円を突破したと報じられています。

一方の映画『国宝』は2025年6月6日公開。公開172日(11月24日まで)で観客動員1231万人、興行収入173億円を突破し、実写邦画の国内興収で歴代1位になったと複数メディアが伝えています。AV Watch+2Nippon+2

つまり2025年は、「アニメの巨大作品」と「実写の巨大作品」が、同じ年に“勝ち切った”年でした。ジャンルの勝利じゃなく、作り手の本気に観客が反応した年、とも言えるでしょう。


共通点①:長尺でも見に行く──“時間を払う価値”が戻った

この2本、どちらも長いです。

『無限城編 第一章』は155分。
『国宝』は175分。

にもかかわらず、前者は国内で379.2億円、後者は173.7億円まで伸びました。

ここで大事なのは、近年あった映画は「長い=ヒットしない」という風潮、空気感が2025年に少し揺れたことです。もちろん、短い作品が悪いわけではありません。ただ、長尺が“弱点”ではなくなった。観客の側が「時間を払う価値があるなら払う」という態度に戻った、と解釈できます。

反例もあります。長尺は確実に人を選びます。だからこそ、長尺でも座らせるだけの密度(映像・演技・物語の推進力)が必要で、作り手の力量が問われます。『国宝』が「タイムパフォーマンス志向の中で常識を覆した」と語られているのは、まさにこの点です。


共通点②:強さより「覚悟」──折れない姿に人が集まる

『鬼滅』はバトル作品ですが、観客が持って帰るのは“勝ってスカッと”だけではありません。失いながらも前に進む、という作品です。
『国宝』も同じで、歌舞伎界という重い世界で、個人の才能や努力だけではどうにもならない局面が何度も出てくる。だからこそ余計に最後まで立ち続ける姿が胸に刺さるのです。

この共通点は、かなり2025年っぽいです。先が読みにくい時代ほど、人は「楽勝ストーリー」より「簡単に勝てない現実の中で、覚悟を積み上げる話」に心が揺さぶられるのです。暗い話というより、現実と地続きの納得が欲しくなった、という変化です。


共通点③:血筋より「選び直し」──関係をつくり直す物語

価値観の変化が一番出るのは、ここだと思います。

『国宝』は、主人公・喜久雄と、歌舞伎界の御曹司・俊介の関係が軸にあります。
そして歌舞伎の世界は、(現実でも)型と血筋のイメージが強い。そこに“別の出自”を持つ人が入り、居場所を勝ち取ろうとする。この構図自体が、「最初から与えられた関係」ではなく「自分の選択で関係を結び直す」物語になっています。

『鬼滅』も、血のつながり(炭治郎と禰豆子)から始まりつつ、仲間や柱との関係が積み上がっていく作品です。家族だけで完結せず、“チームとしての関係”に重心が移っていく。この2本が同時に刺さったのは、日本人の中で「血筋そのもの」より「自分で守ると決めた関係」の価値が上がっているから、とも読むことができるでしょう。


2作品の違いが示す、価値観の分岐

同じように熱狂されても、刺さり方は違います。ここが「日本人の気分が一枚岩ではない」ポイントです。

観点鬼滅の刃(無限城編 第一章)国宝
受け取るもの感情の爆発と決戦の加速技術の積み上げと人生の重さ
観た後に残るもの「守る」と決める意志「続ける」と決める覚悟
合いやすい人感情を大きく動かしたい静かに深く、感情に浸りたい

『鬼滅』が“熱量の上昇”で人を呼び込む映画なら、『国宝』は“感情の蓄積”で人を呼び込む映画です。両方が当たった2025年は、観客が求める満足の形が「一種類じゃなくなった」年、ともまとめられます。


よくある疑問Q&A

なぜ2025年に「長尺映画」がここまで勝てた?

155分と175分という長さでも興行実績が伸びたことから、「質が伴うのであれば、人は時間を取られてでも見る」と日本人の価値観がアップデートされたといえます。

『国宝』は歌舞伎を知らなくても大丈夫?

作品情報でも「歌舞伎界」を舞台にした人間ドラマとして整理されていて、前提知識を前面に押し付けるタイプではありません。
ただし175分は事実として長いので、軽い気分転換を求める人には合わない可能性があります。


まとめ:2026年以降も当たりやすい“熱狂の条件”

結論として、2025年の熱狂は「ジャンル」ではなく、作品自体が持つ「質・覚悟・熱量」で起きました。

よって熱狂に必要な条件をまとめると
1.長くても見切れない質が伴う。
  155分・175分という長さが弱点にならなかったのは、観客が“払った時間の元を取れた”と感じたからです。

2.勝ち負けより覚悟が中心にある
  理不尽がある前提で、それでも折れない姿が、現在の格差社会である今の空気感に合っています。

3.見た後に語りたくなる価値を提供する
  初動の爆発(『鬼滅』)も、ロングヒットの口コミ(『国宝』)も、熱が“鑑賞後”に伸びていきました。

2025年は、観客が「軽さ」だけに寄らず、「本気の作品なら長くても受け止める」方向に踏み直した年でした。
世界は相変わらず不安定で不確実な状況ですが、映画館だけは不思議と“確実に濃い体験”が置いてあった。だからこそ、人が集まり、大ヒットに繋がったのではないでしょうか。
この2作品の大ヒットという現象は日本の現状の多様な面を可視化したともいえるでしょう。

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